行政事件訴訟法には「執行停止」「仮の義務付け」「仮の差止め」といった救済が規定されており、仮の救済といった呼ばれ方もします。
そんな仮の救済にはいくつか要件が設けられており、執行停止の要件と仮の救済の要件の微妙な違いは押さえておきたいポイントとなります。
行政庁の処分や裁決によって、私たちの権利や利益が侵害されたり、侵害される恐れがある場合に守ってくれる「3つの魔法」ともいえます。
まずはそれぞれを表で見ていきましょう。
救済制度 | 目的 | 対象 |
---|---|---|
執行停止 | 行政庁の処分や裁決の効力を一時的に停止させる | 既に行われた処分や裁決 |
仮の義務付け | 行政庁に特定の行為をするよう命じる | 行政庁が本来すべきこと |
仮の差止め | 行政庁に特定の行為をしないよう命じる | 行政庁がこれから行おうとしている違法な行為 |
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執行停止と仮の救済とは?
執行停止と仮の救済は、行政事件訴訟法で定められた、いわば「応急処置」のような制度です。
行政庁の処分や裁決によって、私たちの権利や利益が侵害されたり、侵害される恐れがある場合に、一時的にその効果を止めたり、行政庁に特定の行動を命じたりすることで、私たちを守ってくれます。
例えば、不当に営業許可を取り消されたとします。
もし、取消訴訟を起こして勝訴するまで営業を停止しなければならないとしたら、あなたは多大な損害を被ってしまうでしょう。
そんな時、「執行停止」という応急処置を施せば、訴訟で争っている間も営業を続けることができます。
その後、取消が正しいものと判断された場合は、取消されるという流れですので、一時的なものともいえます。
執行不停止の原則
執行停止について理解を深める上で、「執行不停止の原則」という概念を知っておく必要があります。
これは、行政事件訴訟法第25条第1項で定められており、「処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない」とされています。
どうして執行停止の原則があるの?
執行不停止の原則は、行政の円滑な運営を確保するためのもので、行政庁の処分や裁決は、公共の利益を守るために必要なものです。
もし、訴訟が提起されただけで、その処分や裁決の効力が停止してしまうと、行政の活動が滞ってしまい、かえって国民の不利益につながる可能性があります。
執行停止:行政の決定を一時的にストップ!
執行停止は、行政庁の処分や裁決の効力を一時的に停止させる制度です。
また、行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為は民事保全法に規定する仮処分をすることができないと44条で規定されており、それに対する救済を求めることができないために認められているものとなります。
内容そのものは、行政不服審査法と同じになります。
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- 裁判で争っている間、行政の処分や裁決の効力を一時的に止めてもらうこと。
- 例えば、立ち退き命令を受けたけれど、裁判で争っている間は家に住み続けたい場合などに利用できます。
例えば、長年住み慣れた家を、市から立ち退きを命じられました。
納得がため、取消訴訟を起こすことにしましたが、訴訟が終わるまで待っていたら、家を出て行かなければなりません。
そんな時、執行停止を申し立てることで、訴訟が終わるまで立ち退きを猶予してもらうことができるかもしれません。
仮の義務付けと仮の差止め:行政に行動を促す!
仮の義務付けと仮の差止めは、行政庁に特定の行為をするよう命じたり、特定の行為をしないよう禁止したりする制度です。
- 裁判で争っている間、行政に何かをしてもらう(仮の義務付け)または、何かをしないようにしてもらう(仮の差止め)こと。
- 例えば、資格試験の合格通知が来ない場合に通知を命じてもらったり、違法な開発を一時的に中止させたりすることができます。
仮の義務付けは、行政庁が本来すべきことをしていない場合に、裁判所が行政庁に対して、その行為をするよう命じる制度です。
例えば、ある資格を取得するために必要な申請をしましたが、行政庁はなかなか審査結果を通知してくれません。
そんな時、仮の義務付けを申し立てることで、裁判所が行政庁に対して、審査結果を通知するよう促すことができるかもしれません。
一方で仮の差止めは、行政庁がこれからしようとしている違法な行為を止めるよう求める制度です。
住んでいる地域で、環境面での考慮を十分に行わずに、大規模な開発計画が進められています。
この開発によって環境破壊が起こるのではないかと思った場合、仮の差止めを申し立てることで、裁判所が行政庁に対して、開発行為を一時的に中止するよう促すことができるかもしれません。
それぞれの条件とは
執行停止、仮の救済が行われるためにはいくつか条件があります。
また、ほかの手段によって救済の目的が達成できる場合は、執行停止等の効力を停止することはできません。(25条但し書き)
違いとしては、執行停止、仮の救済に関して、理由がないと見える場合は執行停止できないとされていますが、理由がある場合は仮の義務付け、仮の差止めをすることができるという、差は押さえておきたいポイントとなります。
- 理由がないと見える場合:執行停止できない
- 理由があると見える場合:仮の差止め、仮の義務付けができる
- 緊急性:処分や裁決の執行によって、回復困難な損害が生じるおそれがあること。
- 適法性:取消訴訟が正しく提起されていること。(訴訟と同時に提起する必要はなく事後でもOK)
- 申立て:執行停止の申立てがされていること
- 公共の福祉への配慮:執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと。
なお、執行停止によって公共の福祉に重大な影響を及ぼす可能性がある場合は、執行停止はしないこともできます。
※その停止によって、社会全体に大きな影響が出ると予想される場合は、執行停止は認められない。
例えば、感染症対策のために営業停止を命じられた飲食店が、執行停止を求めた場合、感染拡大のリスクが高まる可能性があるといった場合が考えられます。
緊急性とは、例えば、立ち退きを命じられた場合、他に住む場所がなければ、生活に困ってしまうなど、いった場合、緊急性があると認められる可能性が高いです。
- 緊急性:義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないこと(仮の義務付けの場合)、または差止めの訴えに係る処分又は裁決がされること(仮の差止めの場合)により、償うことのできない損害が生ずる恐れがあること。
- 適法性:義務付け訴訟、差し止め訴訟が正しく提起されていること。
- 申立て:仮の差止め、仮の義務付けの申立てがされていること
- 根拠:本案に理由が見えること
- 公共の福祉への配慮:執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと。
まとめ
行政事件訴訟法には、行政の処分や裁決によって困った事態に陥った時に、あなたを守るための「救急処置」のような制度があります。
それが、「執行停止」と「仮の義務付け・差し止め」です。
「執行停止」は、訴訟で争っている間、行政の決定の効力を一時的にストップしてもらう制度です。
一方、「仮の義務付け」と「仮の差止め」は、行政に何かをしてもらう(仮の義務付け)または、何かをしないようにしてもらう(仮の差止め)制度です。