行政事件訴訟法

行政事件訴訟法の取消訴訟【要件は7つすべて】満たす必要があり!?「取消訴訟を徹底解説!!」

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行政事件訴訟法の取消訴訟は、行政庁の違法・不当な処分や裁決を取り消してもらうための訴訟です。
取消訴訟は、行政庁の違法な処分や裁決から国民の権利を守るための重要な訴訟です。
取消訴訟を提起するためには、7つの要件を満たす必要があり、特に、原告適格、処分性、出訴期間の遵守は、訴訟を提起できるかどうかの重要なポイントとなります。
また、原処分主義と裁決主義の違いを理解することも重要です。

わかりやすく、ポイントを押さえながら解説していきます。

成り上がリーガルポイント
  • 取消訴訟とは:行政庁の違法・不当な処分や裁決を取り消すための訴訟
  • 取消訴訟の対象:行政庁の処分および裁決
  • 取消訴訟の提起要件:原告適格、処分性、訴えの利益、被告適格、裁判管轄、出訴期間の遵守、審査請求前置
  • 原処分主義:審査請求に対する裁決が違法でも、取消訴訟の対象はあくまで原処分
  • 裁決主義(例外):国税・地方税に関する処分については、審査請求に対する裁決に対してのみ取消訴訟を提起できる

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行政事件訴訟法の取消訴訟とは?

取消訴訟とは、一言で言うと、行政庁の処分や裁決を取り消してもらうための訴訟です。

例えば、飲食店を開業するために、保健所から営業許可をもらったとします。
ところが、ある日突然、保健所から「衛生管理が不十分だ」という理由で営業許可を取り消されてしまったとしましょう。

取消訴訟は、まさにそんな時に役立つ法律の武器です。
裁判所に訴え出ることで、その処分が違法だったと認められれば、営業許可が復活する可能性があるんです。
※明らかにNGな場合は取消は当然ですが。

行政庁は、私たちの生活を守るために、様々なルールや規制を設けていますが、時にはそのルールや規制が間違っていたり、不当に適用されたりすることがあります。

そんな時、私たちには、自分の権利を守るための手段が必要です。
それが、取消訴訟です。

取消訴訟の対象(3条2項3項)

取消訴訟の対象となるのは、行政庁の処分と行政庁の裁決です。

例えば、新しい建物を建てるために、建築確認申請を市役所に提出しました。
しかし、市役所は、明らかに違法性もないにも関わらず、申請が不許可となったため、この不許可処分が違法だと考えています。
こんな時、市役所を相手に、建築許可の不許可処分を取り消してもらうための取消訴訟を起こすことができます。

行政庁の処分(3条2項)

処分とは、行政庁が国民の権利や義務に直接影響を与える行為のことです。

例えば、営業許可の取消し、建築許可の不許可、税金の賦課などが処分に当たります。

行政庁の裁決(3条3項)

裁決とは、行政庁が審査請求や異議申立てなどに対する判断のことです。

例えば、審査請求を棄却する決定、異議申立てを却下する決定などが裁決に当たります。

原処分主義と裁決主義

行政事件訴訟法は、原処分主義を採用しています。
※原処分の違法を主張して、裁決取消訴訟で争うことはできない。(10条2項)

ただし、例外的に裁決主義が採用される場合があります。

例えば、国税通則法や地方税法では、裁決主義が採用されています。

つまり、国税や地方税に関する処分に対して不服がある場合は、まず審査請求を行い、その裁決に対して取消訴訟を提起する必要があります。

原処分主義と裁決主義
  • 原処分主義:行政庁の処分そのものを取り消すことを求める訴訟(取消訴訟)を提起できます。
    審査請求は任意ですが、法律で義務付けられている場合は、審査請求を経なければ取消訴訟を提起できません。
  • 裁決主義:審査請求に対する裁決のみを対象として、取消訴訟を提起できます。
    つまり、処分そのものに対しては取消訴訟を提起できません。

原処分主義とは?

取消訴訟には、「原処分主義」という重要な原則があります。
原処分主義とは、審査請求に対する裁決が違法な場合でも、取消訴訟の対象はあくまで「原処分」であるという原則です。

例えば、営業許可の取消処分を受けて審査請求をし、審査請求は棄却され、棄却裁決も違法だと考えているとします。

このような場合、取消訴訟で原処分である営業許可の取消処分と、審査請求棄却裁決の両方を取り消してもらうことはできません。
取消訴訟で争えるのは、あくまで原処分である営業許可の取消処分のみです。

原処分主義は、訴訟の対象を明確にすることで、紛争の迅速な解決を図るための原則です。

もし、原処分と裁決の両方を取り消すことができるのであれば、訴訟が複雑化し、解決までに時間がかかる可能性があります。

裁決主義とは?

裁決主義とは、処分に対する審査請求の裁決に対してのみ取消訴訟を提起できるという考え方です。
つまり、処分そのものに対しては取消訴訟を提起できず、審査請求を経た上での裁決に対してのみ取消訴訟を提起できます。
先ほどの原処分主義とは異なり、原処分についても裁決取消訴訟で争うことになります。

行政事件訴訟法の取消訴訟を起こすための条件は?

取消訴訟を起こすためには、以下の7つの条件をすべて満たす必要があります。

取消訴訟の7つの要件
  1. 処分性 (第3条第2項、第3項)
  2. 原告適格 (第9条)
  3. 訴訟による実益[訴えの利益](第9条)
  4. 被告適格 (第11条)
  5. 裁判管轄 (第12条)
  6. 出訴期間の遵守 (第14条)
  7. 審査請求前置 (第8条)

1. 処分性:訴訟の対象になる行為は?(第3条)

処分性とは、ある行為が取消訴訟の対象となるかどうかを判断するための基準です。
処分については、公権力の行使によって行われる行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものであると、判例で示されています。

取消訴訟の対象となるのは、行政庁の処分や裁決のうち、公権力に基づく行為であり、かつ個別具体的な効果を持つ行為です。

処分性が認められるケース 処分性が認められないケース
営業許可の取消し 行政指導(助言や勧告など)
建築許可の不許可 公有財産の不使用許可
税金の賦課 行政計画の策定
補助金の不交付決定 事実行為(道路の清掃や補修など)

処分性がない行為は、取消訴訟の対象になりません。
例えば、行政から「この状態だと営業許可を取り消す可能性がありますよ」といった行政指導を受けたとしても、これは取消訴訟の対象にはなりません。
なぜなら、行政指導は、あくまで行政庁からの「アドバイス」であり、あなたの権利や義務に直接影響を与えるものではないからです。

このように、処分性があるかどうかを判断することは、取消訴訟において非常に重要です。

公権力に基づく行為とは?

公権力とは、行政が国民に対して優位な立場で行使する権力のことです。
法律に基づいて、国民の権利や義務に影響を与える行為が、公権力に基づく行為に当たります。
私法上の行為については、処分性は認められないこともあります。

個別具体的な効果を持つ行為とは?

個別具体的な効果を持つ行為とは、特定の個人や団体に対して、具体的な権利や義務の発生、変更、消滅などの効果をもたらす行為のことです。

2. 原告適格:誰が訴訟を起こせるの?(第9条)

原告適格とは、訴訟を起こす権利のことです。
取消訴訟を起こすことができるのは、処分や裁決によって法律上の利益を侵害された人だけです。

処分によって、権利もしくは法律上保護された利益を侵害または、必然的に侵害されるおそれのある者を指します。

法律上の利益とは、法律によって保護されている権利や利益のことです。
例えば、営業許可や建築許可は、法律上の利益に当たります。

3. 訴訟による実益[訴えの利益]:訴訟を起こす意味はある?(第9条)

訴えの利益とは、訴訟を起こすことによって、具体的な利益が得られる見込みがあることです。

例えば、処分や裁決が取り消されても、あなたの状況が何も変わらないのであれば、訴えの利益はないと判断される可能性があります。
※「回復すべき法律上の利益を有する者」という規定があります。

4. 被告適格:誰を訴えるの?(第11条)

被告適格とは、訴えられる側の資格のことです。
取消訴訟の被告は、処分または裁決をした行政庁の所属する、国または公共団体になります。

例えば、市役所の建築許可不許可処分に対して取消訴訟を起こす場合、被告は市役所になります。
また、行政庁が国または公共団体に所属しない場合は、当該行政庁を被告として提起しなければならないといしています。(11条2項)

被告を誤った場合の救済(第15条)

もし、被告を間違えて訴訟を起こしてしまった場合、原告の申立てによってのみ変更することができます。

取消訴訟において、原告が故意又は重大な過失によらないで被告とすべき者を誤ったときは、裁判所は、原告の申立てにより、決定をもつて、被告を変更することを許すことができる。

つまり、故意または重大な過失なく被告を間違えた場合は、裁判所に申し立てることで、被告を変更することができます。
裁判所から変更を求めるようなことはありません。

5. 裁判管轄:どの裁判所に訴えればいいの?(第12条)

裁判管轄とは、どの裁判所がその訴訟を審理する権限を持っているかということです。

被告の種類 管轄裁判所
国または独立行政法人 東京地方裁判所
地方公共団体 被告の所在地を管轄する地方裁判所
土地収用など、不動産に関する処分の場合 被告の所在地を管轄する地方裁判所、または不動産の所在地を管轄する裁判所
下級行政機関が事案の処理に当たった場合 下級行政機関の所在地を管轄する裁判所
国または独立行政法人だが、他の裁判所で同一の処分又は裁決に係る抗告訴訟が係属している場合 原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所

取消訴訟を起こす裁判所は、基本的には被告の所在地を管轄する地方裁判所です。

しかし、例外もあります。
例えば、あなたが国や独立行政法人を相手に訴訟を起こす場合は、東京地方裁判所が管轄になります。
また、土地の収用など、不動産に関する処分の場合は、その不動産の所在地を管轄する裁判所にも訴訟を提起することができます。

なぜ管轄が変わるの?

管轄が変わるのは、事件の種類や内容によって、より適切な裁判所が異なるからです。

例えば、土地の収用に関する訴訟は、その土地の状況を把握している裁判所の方が、より適切な判断を下せると考えられます。
そのため、不動産の所在地を管轄する裁判所にも訴訟を提起できるようにしています。

もし、管轄を間違えて訴訟を起こしてしまった場合でも、必ずしも訴えが却下されるわけではありません。
裁判所は、職権で、またはあなたの申立てによって、訴えを正しい管轄裁判所に移送することができます。
ただし、管轄違いの訴えを提起したことに重大な過失がある場合や、被告が管轄違いの抗弁を提出しないまま本案について弁論をした場合には、訴えが却下される可能性があります。

  • 行政事件訴訟法第7条(この法律に定めがない事項):行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。
  • 民事訴訟法第15条(管轄違いの訴えの移送):訴えが裁判所の管轄に属しないものであるときは、その裁判所は、決定で、訴えを管轄裁判所に移送しなければならない。
例えばこんなケース

国土交通省の処分に対して取消訴訟を起こしたいと考えています。
この場合、被告は国土交通省なので、東京地方裁判所に訴訟を提起することになります。

しかし、誤って自分の住んでいる地域の地方裁判所に訴訟を提起してしまった場合でも、裁判所は、訴えを東京地方裁判所に移送することができます。

6. 出訴期間の遵守:いつまでに訴訟を起こさなきゃいけないの?(第14条)

取消訴訟を起こせる期間は、処分や裁決があったことを知った日から6か月以内です。(1項)
※主観的出訴期間
ただし、処分や裁決があったことを知らなかった場合は、処分や裁決があった日から1年以内であれば、訴訟を起こすことができます。(2項)
※客観的出訴期間

出訴期間を過ぎてしまうと、原則として取消訴訟を起こすことができなくなってしまいますが、正当な理由がある場合のみ例外として認められます。
※誤った教示をされたときに審査請求をしたときは、訂正された日からとなります。

7. 審査請求前置:裁判の前に審査請求は必要?(8条)

審査請求前置とは、取消訴訟を起こす前に、まず処分をした行政庁に審査請求をする必要があるという原則です。
審査請求とは、処分をした行政庁に対して、もう一度処分を見直してもらうよう求める手続きです。

ただし、緊急性がある場合や、審査請求をしても無駄だと判断される場合など、例外的に審査請求を経ずに取消訴訟を起こせることもあります

まとめ

行政事件訴訟法の取消訴訟は、行政庁の違法または不当な処分や裁決を取り消してもらうための訴訟です。
例えば、営業許可の取消しや建築許可の不許可など、あなたの権利や利益を侵害する決定に対して、裁判所で争うことができます。

取消訴訟を起こすには、7つの条件を満たす必要があります。

取消訴訟には、「原処分主義」という原則があり、審査請求に対する裁決が違法な場合でも、取消訴訟の対象はあくまで「原処分」となります。